芸術の山

芸術の山とは、制作者にとって真に有益な批評的ツールを具現化する媒体である。

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美術の文脈:下界の見取り図

序:本稿の目的
 本稿は、いかにも複雑に語られる芸術の下界における美術の状況を、「作品/制作」という基本的な要素に軸足を置きながら読解していくものである。この読解を進める上で、われわれが留意するのは、以下の三点である。第一は、「作品/制作」をめぐる美術状況を、まずはさまざまに見える諸文脈が交差しあう複合体として捉え、絡まった糸球をときほどいていくように、一つひとつの文脈を解析しつつ「作品/制作」が作る現象をあらためて文脈上に位置づけることである。第二には、諸文脈をそれぞれ同時に扱う以上、互いの文脈は相対化されるということを前提とするため、諸文脈からは一定の距離をおいた仮想的な視点を設定し、そこからの記述を試みるということである。第三は、諸文脈をそれぞれあるキーワードで代表させて端的に名指し、そして、それらキーワードに代表される現象と文脈の関係を極端に要約、整理した上で、図式的に表現するというものである。
 以上の三点を採用することにより、本稿での問題提起は芸術一般をめぐる本質的な問いかけとはならない。作品と制作をめぐる美学的な理解も不可能となる。また、諸文脈中の微細にして大きいとされる差異も扱うことができない。文脈同士の複雑でパラレルな関係についても実証的には論じえないだろう。よって、そもそも本稿に収められた読解はいわゆる「批評」ではないのであるが、このような学術的な「誠実さ」を放棄し、致命的といえるクリシェ満載のレトリックを採用することにより、逆説的に、大きな利点が生まれるであろうことを想定した。その利点とは、美術状況を読み解く、ツールとしての実用性である。この考え方の前提には、前段落で述べたような現代の美術状況に対しての認識がある。現代美術の複雑さが既成事実になってしまっているのならば、その原因である文脈化のための文脈化を一度フリーズさせたところで、解釈しやすい状態へと解凍する必要がある。この解凍作業を経て、文脈は本来の目的を取り戻すのである。
 ここで本稿の内容的な見取り図を簡単に示そう。それぞれは構成としては連続しているが、全体は大きく三つのパートに分かれる。一つめは、美術における作品と観者の出会いの場所と形態、すなわち展示と美術館の問題を、歴史的な文脈を踏まえた上での現代的な問題として扱う。二つめは、現在の美術状況に多く見られる傾向を近代の美術制度を「啓蒙」しようとする「啓蒙型アート」として捉え、類型論として概括する。三つめのパートでは、新しい作品形式の可能性と限界および制作者がかかえる現在的な問題が扱われる。
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 われわれの目論みは本稿をもってすべて果たされたわけではない。ここで扱われていない「作品/制作」をめぐる状況に関しては稿をあらためて展開していく。(田中功起・林卓行・藤田六郎〔以上、芸術の山〕・山本さつき〔『REAR』編集部〕)



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註:
本稿は、『芸術/批評』第2号(東信堂、2005年)に掲載された「美術の文脈:作品/制作の現在」を改題・再編集したものである。「芸術の山」ブログへの掲載にあたっては、山本さつきと東信堂の許可および協力を得た。両者に感謝する。
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